ガウス積分と厳密な証明

数学

概要

次の積分をガウス積分と呼びます.

$$\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx=\sqrt{\pi}. $$

被積分関数の \(e^{-x^2}\) は次のようなすり鉢状のグラフをしています.

ガウス積分は統計学などで重要な役割を果たす積分です. 例えば試験の点数のヒストグラムを作るとこのようなグラフになることが多いと言われています. 他にも物理での実験誤差や身長などはこのグラフに近い形になることが知られていて, このグラフに基づく確率分布を正規分布ガウス分布と呼びます. (参考記事:正規分布の基礎的な知識まとめ

ガウス積分は実数全体に対して積分していますが, 不定積分\(\displaystyle \int e^{-x^2}dx\)を求めることはできません. 世の中には様々な関数があり, 難しい関数を作ろうと思えばいくらでも作れるわけですが, 積分というものはどんな関数に対しても実行できるわけではないのです. ガウス積分は不定積分に置き換えた場合には計算できませんが, \(-\infty\)から\(\infty\)の広義積分に対しては値が求まる特殊な例になっています.

ガウス積分の証明

上記のようにガウス積分は特殊な積分なわけですが, 証明も1変数のままでも証明することもできるのですが, 以下の2変数の積分に持ち上げた公式を用いる値を知ることができる特殊なものになっています.

$$\int\int_{\mathbb{R}^2} e^{-x^2-y^2}dxdy=\pi.\qquad \cdots (A)$$

この積分は極座標変換 \(x=r \cos \theta,\, y=r\sin\theta \) を施すと求まります. \begin{align}
\int\int_{\mathbb{R}^2} e^{-x^2-y^2}dxdy&=\int_0^{2\pi}\int_0^{\infty} e^{-r^2} r drd\theta\\
&=\int_0^{2\pi}d\theta \cdot \int_0^{\infty} e^{-r^2} r dr\\
&=2\pi \lim_{\epsilon\rightarrow \infty} \left[ -\frac{1}{2} e^{-r^2} \right]_0^{\epsilon}\\
&=\pi. \end{align}これで上の公式(A)が示せました. (A)の左辺は\(x\)の関数と\(y\)の関数に分離することができて,
$$\int\int_{\mathbb{R}^2} e^{-x^2-y^2}dxdy=\int_{\mathbb{R}} e^{-x^2}dx\times \int_{\mathbb{R}}e^{-y^2}dy=\left(\int_{\mathbb{R}} e^{-x^2}dx\right)^2\qquad \cdots (\#)$$と変形できます.
この式と(A)からガウス積分の公式$$\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx=\sqrt{\pi}$$が得られます.

実は(#)における変形には広義重積分の厳密な議論が必要になります. ネット上の記事ではこの程度の説明で済ませているものが多いのですが, この記事ではより厳密なところまで踏み込みます.

証明についての厳密な議論 〜 式(#)について〜

上の証明では(#)において\(x\)と\(y\)の変数を分離し, それぞれの積分の積に変形しました. このような変数分離形は通常の重積分ではいつでも成立しますが, ガウス積分や(A)は厳密には広義積分です. 広義の重積分において変数分離形に持ち込んで積分を分解するには以下の定理を使う必要があり, この定理の仮定の部分に注意を払う必要があります.

定理(広義重積分のおける変数分離形)
関数\(f(x)\), \(g(x)\)に関する広義積分$\(\int_a^{\infty} |f(x)|dx, \, \int_b^\infty |g(x)|dx \)がそれぞれ収束するならば, 領域\(D=\{(x,y)| a\leq x \leq \infty,\; b\leq y \leq\infty\}\)上における広義重積分について$$ \int \int_D f(x)g(y)dxdy=\int_a^{\infty} f(x)dx\cdot \int_b^{\infty} g(y)dy$$が成立する. (この定理の証明はこちら
つまり, この定理を用いて(#)のような変形をするには, それそれの変数に関する広義積分\(\int_{\mathbb{R}} e^{-x^2}dx\)が収束することを示さなければなりません. 以下の命題を示せば証明はより厳密なものになります.
命題
広義積分\(\displaystyle \int_{\mathbb{R}} e^{-x^2}dx\)は収束する.
証明
被積分関数\(e^{-x^2}\)は偶関数なので, 積分\(\int_0^{\infty}e^{-x^2}dx\)が収束することを示せば十分です. さらに $$\int_{0}^{\infty}e^{-x^2} dx =\int_{0}^1 e^{-x^2}dx+\int_{1}^{\infty} e^{-x^2}dx.$$と分解します. \(\int_0^1 e^{-x^2}dx\) は広義積分ではなく通常の積分なので収束します. 従ってあとは\(\int_{1}^{\infty} e^{-x^2}dx.\)が収束することを示せばよいということになります. $$f(r)=\int_1^{r}e^{-x^2}dx\quad (r \geq 1)$$とおくと, \(e^{-x^2} \geq 0\)より, \(f(r)\)は単調増加関数となります. \(x \geq 1\)のとき\(e^{-x^2}\leq x e^{-x^2}\)ですから$$ f(r)\leq \int_1^r x e^{-x^2}dx=\left[-\frac{1}{2}e^{-x^2}\right]_0^r\rightarrow \frac{1}{2}\quad (r \rightarrow \infty)$$となって\(f(r)\)は上に有界です. 上に有界な単調増加関数は収束するので\(f(r)\)は収束します. 以上より,広義積分\(\displaystyle \int_{\mathbb{R}} e^{-x^2}dx\)は収束します.
これでガウス積分の厳密な証明が完了しました.

証明についての厳密な議論 〜はさみうちの原理を使う方法〜

上の定理(広義の重積分のおける変数分離形)を使う代わりに, ガウス積分を有限の区間\([-M,M]\)(\(M>0\))に制限してから, \(\int_{-M}^M e^{-x^2}dx\)の極限\(M\rightarrow \infty\)を挟み打ちの原理で示す方法もあります. 厳密に書かれている教科書では広義積分の変数分離に対する議論を避けるため, この方法を用いるのが一般的です. $$
J_M=\int_{-M}^M e^{-x^2}dx$$とおくと, $$(J_M)^2=\left(\int_{-M}^M e^{-x^2}dx\right)\left(\int_{-M}^M e^{-y^2}dy\right)=\int \int_{E_M} e^{-x^2-y^2}dxdy$$となります. ただし\(E_M=\{(x,y)|-M\leq x\leq M, \; -M\leq y\leq M\}\)としました. この等式自体は有限の区間で制限しているので, 広義の重積分の場合とは異なり, 特に問題はありません. ここで\(B_{M}=\{(x,y)|x^2+y^2\leq M^2\}\)とおくと, 円と正方形の包含関係から$$
B_M\subset E_M\subset B_{\sqrt{2} M}$$となるので, $$
\int \int_{B_M} e^{-x^2-y^2}dxdy\leq \int \int_{E_M} e^{-x^2-y^2}dxdy\leq \int \int_{B_{\sqrt{2}M}} e^{-x^2-y^2}dxdy.$$

つまり$$
\int \int_{B_M} e^{-x^2-y^2}dxdy\leq (J_M)^2 \leq \int \int_{B_{\sqrt{2}M}} e^{-x^2-y^2}dxdy
$$という不等式が成り立ちます. ここで極座標変換を施せば, $$
\int \int_{B_M} e^{-x^2-y^2}dxdy
=\int_0^{2\pi} \int_0^M r e^{-r^2}drd\theta=\pi \left(1-e^{-M^2}\right)\rightarrow \pi\quad (M\rightarrow \infty)$$と計算でき, 同様に\(\int \int_{B_{\sqrt{2}M}} e^{-x^2-y^2}dxdy\rightarrow \pi\)なので, はさみうちの原理より$$\lim_{M\rightarrow \infty} (J_M)^2=\lim_{M\rightarrow \infty} \int \int_{E_M} e^{-x^2-y^2}dxdy=\pi.$$よってガウス積分が$$
\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx=\lim_{M\rightarrow \infty} J_M=\sqrt{\pi}
$$となることを厳密に証明できます.

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