広義重積分

数学

この記事では広義の重積分について解説します.

広義重積分の定義

※広義重積分は厳密に定義しようとすると少し大変です. 定義について掘り下げたい方以外は, この章を飛ばして, 先に計算例に進んでも良いと思います.

1変数の広義積分は, \(\displaystyle \lim_{k \rightarrow \infty} \int_a^k f(x) dx\) や \(\displaystyle \lim_{\varepsilon \rightarrow 0} \int_{\varepsilon}^{a} f(x) dx\) のように, 積分区間の極限をとることで計算できました.

1変数の場合には極限の取り方はほぼ1通りですが, 2変数になると積分範囲の制限の仕方や極限の取り方に様々なものが考えられ, きちんと定義するには収束に関して詳細な議論が必要になります.
そのために, まず次の用語を用意します.

定義

集合 \(A\subset \mathbb{R}^2 \) に対して, 以下の2条件を満たす面積確定な(ジョルダン可測な)有界閉集合の列 \(\{D_n\}_{n=1}^{\infty}\) を \(A\) の近似列または取り尽くし列という.
(1)\(D_1 \subset D_2 \subset D_3 \subset \cdots \)
(2)任意の有界閉集合 \(K \subset A\) に対して \(K\subset D_n\) となる番号 \(n\) が存在する.

この \(D_n\) が有界閉集合の列であるということを強調してコンパクト近似列(コンパクトとは集合が有界かつ閉集合(\(\mathbb{R}^2\) の部分集合の場合,)であることを指す. )ということもあります. また可測であるということを強調して可測な近似列という言い方をしたりもします.

※ 平面 \(\mathbb{R}^2\) の部分集合について近似列を定義したが, 一般に \(n\) 次元空間 \(\mathbb{R}^n\) においても同様に定める.

注意. 条件 (2) から次の条件 (3) が成り立つ:
(3) \(\displaystyle A=\bigcup_{n=1}^{\infty} D_n.\)

\(D_n\) は \(A\) の部分集合だから, \( A \supset \bigcup_{n=1}^{\infty} D_n\) となる. 逆に, 任意の\(A\)の元 \( (a,b) \in A \) に対して, 一点集合 \( \{(a,b)\}\) は閉集合なので, \( (a,b)\in D_m\)となる番号 \(m\) が存在する. よって\(A \subset \bigcup_{n=1}^{\infty} D_n\)も成り立つ. 

これは蛇足ですが, 条件 (3) を満たすからといって, (2) を満たすとは限りません. (3) だけでは広義重積分を定義するには不十分で, 後述する定理の証明で条件(2)が必要になります.

(3) \(\Rightarrow\) (2) は一般には成り立たないことの証明.
数直線上において閉区間 \(I_n =[1-\frac{2}{3^n}, 1-\frac{1}{3^n}]\) を用いて, $$
A=\left( \bigcup_{n=1}^{\infty} I_n \right) \cup \{1 \}
$$ と定める. \(D_n=\left(\bigcup_{k=1}^{n} I_k\right) \cup \{1\}\) とすると, \(\bigcup_{n=1}^{\infty} D_n=A\) である. (条件(3)を満たす.) 一方で, \(K=A \cap [\frac{7}{9},1] \) とすると \(K\) は \(K \subset A\) となる閉集合であるが, \(K \subset D_n \) となる番号 \(n\) は存在しない. (条件(2)をみたさない. )

以下において, 集合 \(A\subset \mathbb{R}^2 \) 上での関数 \(f: A \rightarrow \mathbb{R}\) の広義積分を定義します( \(A\) も \(f(x,y)\) も有界とは限らない). このとき, \(A\) と \(f(x,y)\) に次の3つの前提条件を満たすことを仮定しておきます.

前提条件
(a) 任意の正方形 \(S(R)=\{(x,y) \mid -R \leq x \leq R, \; -R\leq y \leq R\} \)に対して, \(S(R) \cap A\) は面積確定とする.
(b) \(A\) に近似列が存在する.
(c) 任意の \(A\) 内の面積確定な有界閉集合 \(K \subset A\) に対して, 関数 \(f(x,y)\) は有界かつ積分可能とする.

補足1. \(f(x,y)\) が連続ならば (c) は必ず成り立つ.

補足2. 重積分周辺の定義や定理の仮定において, よく「面積確定な有界閉集合」という条件があります. 直感的には有界閉集合は面積確定(ジョルダン可測)であるように感じるかもしれませんが, 面積確定でない有界閉集合の例としてファットカントール集合ハルナック集合が存在します.

定義(広義重積分、非負値関数の場合)

\(f(x,y)\) を \(A\subset \mathbb{R}^2\) 上で定義された非負の関数とする(\(f(x,y)\geq 0\)). このとき, \(A\)の全ての近似列 \(\{D_n\}\) に対して, $$
\lim_{n\rightarrow \infty} \int \int_{D_n}f(x,y)dxdy$$が同じ値に収束するとき, \(f(x,y)\) は \(D_n\) 上で広義積分可能であるといい, その値を$$\int\int_A f(x,y)dxdy=\lim_{n\rightarrow \infty} \int\int_{D_n}f(x,y)dxdy$$ と書く.

\(f(x,y)\) が非負ではない場合, \begin{align} f^+(x,y)&=\max \{f(x,y), \; 0\}\\ f^-(x,y)&=\max\{-f(x,y),\; 0\}\end{align}とおけば, \(f^+, f^-\) は非負値関数となるので, \(f^+, f^-\)がそれぞれ \(A\) 上広義積分可能なとき, $$\int\int_D f(x,y)dxdy=\int\int_D f^+(x,y)dxdy-\int\int_D f^-(x,y)dxdy$$と定める.

次の定理により, 実際には1つの近似列をとって, 収束を確かめればよいことが分かります. 証明は省略します.

定理

\(f(x,y)\) を \(A\subset \mathbb{R}^2\) 上の関数で, 前提条件 (a) (b) (c) を満たすとする. このとき以下の2条件は同値である:
(1) \(f(x,y)\) は \(A\) 上, 広義積分可能.
(2)\(A\) のある1つの近似列 \(\{D_n\}\) に対して極限 \(\displaystyle \lim_{n\rightarrow \infty}\int\int_{D_n}f(x,y)dxdy\)が存在する.

証明.
(1) \(\Rightarrow \) (2) については自明.
(2) \(\Rightarrow \) (1)について.
定義から \(f(x,y)\) が非負関数の場合のみを示せばよい.
\(E_n\) をもう一つの近似列とし, $$
I_n=\int\int_{D_n}f(x,y)dxdy, \quad J_n=\int\int_{E_n}f(x,y)dxdy
$$とおく. \(f(x,y)\) が非負のとき, 近似列の性質 (1) より \(I_n\), \(J_n\) はそれぞれ単調増加, つまり \(I_n \leq I_{n+1}, \; J_n\leq J_{n+1}\) である. また近似列の性質(2) より, 任意の \(E_n\) に対して, \(E_n \subset D_m\) となる番号 \(m\) が存在する. よって$$
J_n \leq I_m \leq \lim_{m\rightarrow \infty} I_m
$$だから, \(J_n\) は上に有界な単調増加数列である. したがって \(J_n\) は収束し, $$
\lim_{n\rightarrow \infty} J_n \leq \lim_{n\rightarrow \infty} I_n
$$となる. 同様にして\(\displaystyle \lim_{n\rightarrow \infty} I_n \leq \lim_{n\rightarrow \infty} J_n\) も成り立つから, \(\displaystyle \lim_{n\rightarrow \infty} J_n = \lim_{n\rightarrow \infty} I_n\) となる.
したがって, どんな近似列についてもその上での積分が同じ値に収束するので, 広義重積分可能である. (証明終)

計算例

1変数のときと同様, 広義重積分には次の2つの場合があります.

・積分範囲の境界で被積分関数が発散する場合
・積分範囲が有界でない場合

例題1(積分範囲の境界で発散する場合)

次の積分を計算せよ. 
$$\int\int_A \frac{1}{\sqrt{1-x^2-y^2}}dxdy$$ただし, \(A=\{(x,y)\mid x^2+y^2<1\}\).

考え方. この積分は \(A\) の境界部分( \( x^2+y^2=1\)となる部分) で被積分関数が発散するので広義積分です. 例えば$$D_n=\{(x,y)\mid x^2+y^2\leq (1-\tfrac{1}{n})^2\}
$$とおいて, 発散のある部分から少し離れたところで積分し, この \(D_n\) 上で積分した後に, 極限 \(n\rightarrow \infty\) をとります.
この \(D_n\)が上の定義における \(A\) の近似列になっています.

答. \(D_n=\{(x,y)\mid x^2+y^2\leq (1-\tfrac{1}{n})^2\}\) とする.
極座標変換を用いれば\begin{align}
&\int\int_{A} \frac{1}{\sqrt{1-x^2-y^2}}dxdy\\
&=\lim_{n\rightarrow \infty }\int\int_{D_n} \frac{1}{\sqrt{1-x^2-y^2}}dxdy\\
&=\lim_{n\rightarrow \infty }\int\int_{\substack{0\leq r \leq 1-\frac{1}{n} \\ 0\leq \theta \leq 2\pi}} \frac{r}{\sqrt{1-r^2}}drd\theta\\
&=\lim_{n\rightarrow \infty } 2\pi \left[-\sqrt{1-r^2}\right]_0^{1-\frac{1}{n}}\\
&=\lim_{n\rightarrow \infty } 2\pi \left(1-\sqrt{1-\left(1-\frac{1}{n}\right)^2}\right)\\
&=2\pi.
\end{align}

補足. 近似列 \(D_n\) の選び方は他にも色々ありますが, 上の定理により1つの近似列について収束を確かめれば十分であることが分かります.

例題2(積分範囲が有界でない場合)

次の積分を計算せよ. $$\int \int_A \frac{1}{(x+y+1)^3} dxdy. $$ただし\(A=\{ (x,y) \mid x\geq 0,\; y\geq 0\}\).

考え方. \(A\) が有界でないので, 有界な範囲に区切ってから積分し, 後で極限をとります.

答. \(D_n = \{(x,y)\mid 0\leq x\leq n,\; 0\leq y\leq n\}\)とすると, \begin{align}
&\int\int_A \frac{1}{(x+y+1)^3} dxdy\\
&=\lim_{n\rightarrow \infty} \int\int_{D_n} \frac{1}{(x+y+1)^3} dxdy\\
&=\lim_{n\rightarrow \infty} \int_0^n dx \int_0^n \frac{1}{(x+y+1)^3} dy\\
&=\lim_{n\rightarrow \infty} \int_0^n dx \left[ -\frac{1}{2} (x+y+1)^{-2} \right]_{y=0}^{y=n}\\
&=-\frac{1}{2}\lim_{n\rightarrow \infty} \int_0^n dx \left\{ (x+n+1)^{-2}- (x+1)^{-2}\right\}\\
&=-\frac{1}{2}\lim_{n\rightarrow \infty} \left[ -(x+n+1)^{-1}+(x+1)^{-1} \right]_0^n\\
&=-\frac{1}{2}\lim_{n\rightarrow \infty} \left(-(2n+1)^{-1}+(n+1)^{-1} +(n+1)^{-1}-1 \right)\\
&=\frac{1}{2}
\end{align}

積分領域が有界でない場合の例として, 他にも$$\int\int_{\mathbb{R}^2} e^{-x^2-y^2}dxdy=\pi.$$という等式をあげておきます. (極座標変換を用いて示せます. )この等式はガウス積分と呼ばれる積分を証明する際に用いられるもので, 証明はガウス積分に関する記事を参照してください. ガウス積分は1変数関数の広義積分ですが, 広義の重積分を用いて証明する方法が有名なおもしろい積分になっています.

変数分離形の公式

広義積分でない通常の重積分では変数分離形の公式\begin{align}&\int\int_D f(x)g(y)dxdy=\left(\int_a^{b}f(x)dx \right)\left(\int_c^{d}g(y)dy \right)\\
&D=\{(x,y)|a\leq x \leq b,\; c\leq y \leq d\}\end{align}が成り立ちました. 同様の公式が広義の重積分でも成り立ちます.

定理(変数分離形の公式)

1変数の広義積分\( \int_a^{\infty}|f(x)|dx \), \( \int_b^{\infty}|g(x)|dx \)が収束するとき, $$\int\int_Df(x)g(y)dxdy=\left(\int_a^{\infty}f(x)dx \right)\left(\int_b^{\infty}g(y)dy \right)$$が成り立つ. ここに\(D=\{(x,y)|a\leq x \leq \infty,\; b\leq y \leq \infty\}\) とした.

簡単のため,\(x,y\)の 積分範囲をそれぞれ\(a\leq x<\infty\), \(b\leq x<\infty\)としましたが, 積分範囲が\(a<x<c\), \(b<y<d\)である広義積分や, \(-\infty<x<\infty\), \(-\infty <y<\infty\)のような場合でも同様の公式が成立します.

この定理を使うときは仮定部分の広義積分\( \int_a^{\infty}|f(x)|dx \), \( \int_b^{\infty}|g(x)|dx \)が収束していないと使ってはいけないことに注意してください. よく, この収束を示さずに公式を用いてる, あまり厳密な解説をなしていない本や記事があります. (例えばガウス積分の証明. )

証明
\(D\) の近似列として\(D_n=\{(x,y)|a\leq x \leq a+n,\; b\leq y \leq b+n\}\) を取れば, \begin{align}\int\int_Df(x)g(y)dxdy&=\lim_{n\rightarrow \infty}\int \int_{D_n} f(x)g(y)dxdy
\end{align}ここに通常の重積分の変数分離形の公式を使えば\begin{align}
\lim_{n\rightarrow \infty}\int \int_{D_n} f(x)g(y)dxdy
&=\lim_{n\rightarrow \infty}\left(\int_a^{a+n} f(x)dx\right)  \left(\int_{b}^{b+n}g(y)dy\right)\\
&=\left(\int_a^{\infty} f(x)dx\right)  \left(\int_{b}^{\infty} g(y)dy\right).\end{align}

コメント

  1. 高橋 より:

    変換ミスでしょうか、漢字「有界」が「誘拐」になっています。

  2. 高橋 より:

    広義重積分
    2.計算例、1.において、近似列 $D_n$ の $1-\frac{1}{n}$ は $\left(1-\frac{1}{n}\right)^2$ がいいと思われます。 $1-\frac{1}{n}$ のままにした場合は、それ以下の行数か所を修正する必要があります。

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