ラグランジュの未定乗数法と条件付き極値問題

数学

条件付き極値問題とは

2変数関数 \(f(x,y)\) と \(g(x,y)\) に対して, 拘束条件 \(g(x,y)=0\) のもとで \(f(x,y)\) の極値を求める問題を条件付極値問題という.

条件付き極値問題のイメージ

図の赤線( 曲線 \(g(x,y)=0\) の真上にできる曲面 \(z=f(x,y)\) の中の曲線) において極大値・極小値を求める問題である.

ラグランジュの未定乗数法

次のラグランジュの未定乗数法を用いて, 極値の候補を調べることができる. 以下, \(f(x,y)\) と \(g(x,y)\) は \(C^1\) 級であるとする.

定理(ラグランジュの未定乗数法)

\(g(x,y)=0\) の条件の下で, 関数 \(f(x,y)\) が点 \((a,b)\) で極値をとるとする.
このとき, \(g_{x}(a,b)=g_{y}(a,b)=0\) でなければ,\[
f_x(x,y)-\lambda g_x(x,y) =0, \qquad f_y(x,y)-\lambda g_y(x,y) =0
\]を満たす実数 \(\lambda\) が存在する.

極値の候補が得られる連立方程式

この定理から \(x, y, \lambda\) の連立方程式 \[\begin{cases} f_x(x,y)-\lambda \, g_x(x,y) =0\\ f_y(x,y)-\lambda \, g_y(x,y) =0 \\ g(x,y)=0 \end{cases} \] の解 \((x,y,\lambda)\) における \((x,y)\) が極値を取る点の候補になる.

注意. 上の定理の逆は必ずしも成り立たない. つまり上の連立方程式の解 \((x,y)\) において, 必ずしも極値をとるとは限らない.

未知の定数 \(\lambda\) を用いているところが「未定乗数法」と呼ばれる理由である. (「未定係数法」と呼ぶこともある. )

証明

\(g_y(a,b)\neq 0\) のとき, \(y=\varphi(x)\) を点 \((a,b)\) の近傍における \(g(x,y)=0\) の陰関数とし, \[u(x)=f(x,\varphi(x))\] とおく. このとき, \(g(x,y)=0\) のもとで, \(f(x,y)\) が点 \((a,b)\) で極値をもつとき, \(u(x)\) も \(x=a\) で極値をもつ.

合成関数の微分法と陰関数定理から, \begin{align} u^{\prime}(x) &= f_x(x, \varphi(x)) \cdot 1+f_y(x, \varphi(x)) \cdot \varphi^{\prime}(x)\\ &=f_x(x, y)+f_y(x, y) \cdot \left(-\frac{g_x(x, y)}{g_y(x, y)}\right). \end{align}

\(u(x)\) が \(x=a\) で極値をもつとき, \(u'(a)=0\) であるので, \(\displaystyle\lambda= \frac{f_y(a, b)}{g_y(a, b)}\) とおくと, \[f_x(a, b)-\lambda g_x(a, b)=0, \quad f_y(a, b)-\lambda g_y(a, b)=0.\] \(g_x(a,b)\neq 0\) のときは, 点 \((a,b)\) の近傍で \(g(\psi(y),y)=0\) となる陰関数 \(x=\psi(y)\) を用いると, 同様にして同じ等式を得ることができる.(証明終了)

例題

例題1

\(f(x,y)=xy\) , \(g(x,y)=x^2+y^2-1\) とする. \(g(x,y)=0\) の条件のもとで \(f(x,y)\) の極値を求めよ.

Step1:極値の候補を求める.

\[f_x(x,y)=y,\quad f_y(x,y)=x,\quad g_x(x,y)=2x,\quad g_y(x,y)=2y\] であるから, 次の連立方程式を解く:\[\begin{aligned} \begin{cases} y-\lambda \cdot (2x) =0, \qquad \cdots (1) \\
x-\lambda \cdot (2y) =0,\qquad \cdots (2)\\
x^2+y^2-1=0.\qquad \cdots (3) \end{cases} \end{aligned}\]

(1) より, \(y=2\lambda x. \)
(2) に代入すると\[\begin{aligned} &x-2\lambda \cdot (2\lambda x)=0 \\
&x(1-2\lambda )(1+2\lambda)=0.\end{aligned}
\]\(x=0\) と仮定すると \(y=0\) となるが, これは (3) に矛盾するので, \(x\neq 0\).
したがって, \(\lambda=\pm \tfrac{1}{2}\).

(i) \(\lambda= \frac{1}{2}\) のとき, \(y= x\) であり, (3) に代入すると, \[\begin{aligned} &x^2+x^2-1=0, \quad 2x^2=1, \quad x=\pm \tfrac{1}{\sqrt{2}}. \end{aligned}\] このとき \(y=\pm\frac{1}{\sqrt{2}}\) . したがって, 連立方程式の解の一部は \[\begin{aligned} (x,y,\lambda)= \left( \pm \tfrac{1}{\sqrt{2}}, \pm \tfrac{1}{\sqrt{2}}, \tfrac{1}{\sqrt{2}} \right) \quad \mbox{(複号同順)}. \end{aligned}\]

(ii) \(\lambda= -\frac{1}{2}\) のときは同様に, \(y= x\) であり, \(x=\pm \frac{1}{\sqrt{2}}\) となる. したがって残りの解は \[\begin{aligned} (x,y,\lambda)= \left( \pm \tfrac{1}{\sqrt{2}}, \mp \tfrac{1}{\sqrt{2}}, -\tfrac{1}{\sqrt{2}} \right) \quad \mbox{(複号同順)} \end{aligned}\] となる.

(i)(ii) より, ラグランジュの未定乗数法から次の4点で極値を取りうる: \[\begin{aligned} (x,y)=\left( \tfrac{1}{\sqrt{2}}, \tfrac{1}{\sqrt{2}} \right) ,\left( -\tfrac{1}{\sqrt{2}}, \tfrac{1}{\sqrt{2}} \right), \left( \tfrac{1}{\sqrt{2}}, -\tfrac{1}{\sqrt{2}} \right), \left( -\tfrac{1}{\sqrt{2}}, -\tfrac{1}{\sqrt{2}} \right). \end{aligned}\]

(解答はStep2に続く. )

Step2:実際に極値をとるかどうか判定する

Step1で求めた極値の候補において, 実際に極値をとるかどうか確かめる必要がある. これには, 「直接計算で確かめる方法」と「等高線をかいて判定する方法」の2通りがある.

直接計算で確かめる方法

直接計算で確かめるには, ラグランジュの未定乗数法の証明でも扱った関数 \(u(x)\) を実際に微分して判定する. このとき, 次の2つの事実を用いる.

1変数関数の第2次導関数を用いた極値の判定

1変数関数 \(y=f(x)\) に対して, \(f'(a)=0\) とする. このとき, \(x=a\) において,  
 ・\(f”(a)>0\) のとき極小値
 ・\(f”(a)<0\) のとき極大値
をとる.

命題(陰関数の導関数)

\(f(x,y)\) を\(C^2\) 級の関数とし, \(y=\varphi(x)\) を \(f(x,y)=0\) から定まる陰関数とする. \(f_y(x,y)\neq 0\) のとき \begin{align}
&\varphi'(x)=-\frac{f_x(x,y)}{f_y(x,y)}, \\
&\varphi”=-\frac{f_{xx} f_y^2 -2 f_{xy} f_x f_y +f_{yy}f_x^2}{f_y^3}
\end{align}となる(\(\varphi”\) の引数は省略する.)

解答の続き.
\(f(x,y)=xy\) , \(g(x,y)=x^2+y^2-1\) だから, \(f(x,y)\) , \(g(x,y)\) はどちらも原点を中心とした対称変換 \((x, y)\rightarrow (-x,-y)\) で不変なので, \[\begin{aligned} (x,y)=\left( \tfrac{1}{\sqrt{2}}, \tfrac{1}{\sqrt{2}} \right) ,\left( -\tfrac{1}{\sqrt{2}}, \tfrac{1}{\sqrt{2}} \right) \end{aligned}\] のときのみを考える. Step1で求めた極値の候補の近傍における, \(g(x,y)=0\) の陰関数を \(y=\varphi(x)\) とおき, \[u(x)=f(x,\varphi(x))\] とおく. このとき, \[\begin{aligned} &u'(x)=f_x(x,y) +f_y(x,y)\varphi'(x)= y + x \varphi'(x),\\ &u”(x)= \varphi'(x) + \varphi'(x)+ x\varphi”(x) = 2 \varphi'(x) + x\varphi”(x). \end{aligned}\] \((x,y)=\left( \frac{1}{\sqrt{2}}, \frac{1}{\sqrt{2}} \right)\) のとき, 上の命題(陰関数の導関数)から, \[\begin{aligned} \varphi'(x)=-\frac{y}{x}=-1, \quad \varphi”(x)= \frac{2xy}{x^3}= -2\sqrt{2}. \end{aligned}\] よって \[\begin{aligned} &u'(x)=\frac{1}{\sqrt{2}} +\frac{1}{\sqrt{2}}\cdot (-1)=0, \quad u”(x)=2 \cdot ( -1)+ \frac{1}{\sqrt{2}} \cdot (-2\sqrt{2})=-4<0 \end{aligned}\]

\((x,y)=\left( -\frac{1}{\sqrt{2}}, \frac{1}{\sqrt{2}} \right)\) のときは, \[\begin{aligned} \varphi'(x)=-\frac{y}{x}=1, \quad \varphi”(x)= \frac{2xy}{x^3}= -2\sqrt{2} \end{aligned}\] より, \[\begin{aligned} &u'(x)= \frac{1}{\sqrt{2}} -\frac{1}{\sqrt{2}}\cdot 1=0,\quad u”(x)=2 \cdot (+1)+ (-\frac{1}{\sqrt{2}}) \cdot (-2\sqrt{2})=4>0 \end{aligned}\]

以上より, 「1変数関数の第2次導関数を用いた極値の判定」から,
\((x,y)=\left( \frac{1}{\sqrt{2}}, \frac{1}{\sqrt{2}} \right)\) のとき, 極大値 \(f\left( \frac{1}{\sqrt{2}}, \frac{1}{\sqrt{2}} \right)=\frac{1}{2}\) をとり,
\((x,y)=\left( -\frac{1}{\sqrt{2}}, \frac{1}{\sqrt{2}} \right)\) のとき, 極小値 \(f\left( -\frac{1}{\sqrt{2}}, \frac{1}{\sqrt{2}} \right)=-\frac{1}{2}\) をとる.

関数 \(f, g\) は変換 \((x, y)\rightarrow (-x,-y)\) で不変だから同様に,
\((x,y)=\left( -\frac{1}{\sqrt{2}}, -\frac{1}{\sqrt{2}} \right), \left( \frac{1}{\sqrt{2}}, -\frac{1}{\sqrt{2}} \right)\) のときも, それぞれ, 極大値 \(\frac{1}{2}\) , 極小値 \(-\frac{1}{2}\) をとる.

(解答終了)

等高線をかいて判定する方法

極値の判定には, 等高線をかいて判断する方法もある.

等高線とは, 地図で用いられる等高線と同じ考え方で, 下図のように曲面 \(z=f(x,x)\) における \(z\) の値(高さ)が等しいところを結んでできる曲線のことである. 下図(左)のような立体図がイメージできなくても, \(z\) の値を定数 \(z=k\) で固定すれば, 曲線 \(xy= k\) (双曲線 \(y=\frac{k}{x}\) ) を描くだけなので, 下図(右)ような平面図はかける. この図を用いて, 極大・極小を判定する.

\(z=xy\) のグラフと等高線
等高線

等高線をかく際には, 次のポイントに気をつけてかくとよい.

“極値の候補”において, \(\lambda\neq 0\) のとき, 曲線 \(g(x,y)=0\) と等高線は必ず接する(共通接線をもつ).
“極値の候補”とは, 上で述べた「極値の候補が得られる連立方程式」の解のこと.

これは \(f(x,y)\) と \(g(x,y)\) の勾配ベクトルが, 平行になっている, つまり, \[
\nabla f = \lambda \cdot \nabla g
\]となっているためである. 詳細はこちらの記事を参照:勾配と等高線

この例題の場合, \((x,y)=\left( \frac{1}{\sqrt{2}}, \frac{1}{\sqrt{2}} \right) ,\left( -\frac{1}{\sqrt{2}}, \frac{1}{\sqrt{2}} \right), \left( \frac{1}{\sqrt{2}}, -\frac{1}{\sqrt{2}} \right), \left( -\frac{1}{\sqrt{2}}, -\frac{1}{\sqrt{2}} \right)\) のとき, \(f(x,y)=\pm \frac{1}{2}\) となるので, \(z=\pm\frac{1}{2}\) の等高線(曲線 \(xy=\pm \frac{1}{2}\) )をかくと下図のようになり, 各点で2曲線は接している.

この図より, 点 \(\left( \frac{1}{\sqrt{2}}, \frac{1}{\sqrt{2}} \right)\) , \(\left( -\frac{1}{\sqrt{2}}, -\frac{1}{\sqrt{2}} \right)\) で極大値 \(\frac{1}{2}\) をとり,

点 \(\left( -\frac{1}{\sqrt{2}}, \frac{1}{\sqrt{2}} \right), \left( \frac{1}{\sqrt{2}}, -\frac{1}{\sqrt{2}} \right)\) で極小値 \(-\frac{1}{2}\) をとる.

もう少し詳しい説明. 例えば等高線 \(xy=\frac{1}{2}\) と 曲線 \(x^2+y^2-1=0\) は点 \(\left( \frac{1}{\sqrt{2}}, \frac{1}{\sqrt{2}} \right)\) で接しており, 曲線 \(xy=\frac{1}{2}\) の上側(領域 \(xy>\frac{1}{2}\) の部分) は等高線よりも常に高く, 下側(領域 \(xy<\frac{1}{2}\) の部分)は等高線よりも常に低い. したがって曲線 \(x^2+y^2-1=0\) 上において, 点 \(\left( \frac{1}{\sqrt{2}}, \frac{1}{\sqrt{2}} \right)\) では, その近傍で最も高い(\(z\) の値が大きい)点になっているので極大値をとる. 他の点も同様に考えれば, 極大極小を判定できる.

注意. 下図のように, 等高線と \(g(x,y)=0\) が接していても(共通接線をもっていても), 貫通している場合は, 極値にはならない.

注意. \(\lambda =0\) のときは, 等高線と曲線 \(g(x,y)=0\) が極値の候補で接しないときもある.
例えば, \(f(x,y)=(x-y)^2,\, g(x,y)=x+y\) のとき, \( (x,y, \lambda)=(0,0,0)\) においてラグランジュの未定乗数法の条件 \[\begin{cases}f_{x}(0,0) – \lambda g_x(0,0)=0 \\ f_{y}(0,0) – \lambda g_y(0,0)=0 \\ g(0,0)=0 \end{cases}\] を満たすが, \(f(x,y)\) の原点を通る等高線 \(y=x\) と, \(g(x,y)=0\)(直線 \(y=-x\))は共通接線をもたない.

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