交代調和級数と和の順序交換

数学

概要

以下の級数は交代調和級数と呼ばれ \(\log 2\) に収束します.

$$1-\frac{1}{2}+\frac{1}{3}-\frac{1}{4}+\frac{1}{5}-\frac{1}{6}+\cdots=\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-1)^{n-1}}{n}=\log 2$$

証明

高校生でも習う和公式から, $$1-x+x^2-x^3+\cdots +(-x)^{k-1}=\frac{1-(-x)^k}{1+x}
$$より$$\frac{1}{1+x}=1-x+x^2-x^3+\cdots +(-x)^{k-1}+\frac{(-x)^k}{1+x}
$$を得ます. この両辺を区間\([0,1]\)上で積分すると
$$\log 2= \sum_{n=0}^{k-1} \frac{(-1)^{n}}{n+1}+\int_0^1 \frac{(-x)^k}{1+x}dx
$$ここで残った積分は
$$\left| \int_0^1 \frac{(-x)^k}{1+x}dx \right|=\int_0^1 \frac{x^k}{1+x} dx \leq \int_0^1 x^k dx=\frac{1}{k+1}\rightarrow 0\quad (k\rightarrow \infty)
$$となります.従って
$$\log 2= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n}}{n+1}
$$が成り立ちます.

ちなみに値はともかく収束するということだけを示すなら, ライプニッツの定理を用いればすぐに示せます.

logのマクローリン展開

\(\log (1-x)\) のマクローリン展開は
$$\log(1-x)=-\sum_{n=1}^{\infty} \frac{x^n}{n}
$$となっていて収束半径は \(1\) でした. つまり \(|x|<1\) のとき収束して, \(|x|>1\)のとき発散します.
交代調和級数はこのマクローリン展開が\(x=-1\) でも成立することを保証します. ちなみに \(x=1\) のときは \(\sum_{n=1}\frac{1}{n}\)となって発散するので, 収束範囲を正確に書くと\(\log (1-x)\) のマクローリン展開は
$$\log(1-x)=-\sum_{n=1}^{\infty} \frac{x^n}{n}, \quad (-1\leq x <1)
$$となります.

条件収束する -順序の入れ替えは不変でない-

交代調和級数は条件収束する級数です. 条件収束とは収束するが絶対収束(各項の絶対値をとっても収束)はしない級数のことです. 実際, 絶対値を取った級数は\(\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n}\)となって発散します. 条件収束する級数は, 順序を入れ替えると収束する値が変わってしまうことがあります. 交代調和級数はその代表例としてよく扱われます. 例えば以下のように順序を入れ替えた級数を考えましょう.

$$1+\frac{1}{3}-\frac{1}{2}+\frac{1}{5}+\frac{1}{7}-\frac{1}{4}+\frac{1}{9}+\frac{1}{11}-\frac{1}{6}+\cdots\qquad (A)
$$交代調和級数は+と-が交互に現れる級数ですが, それを+,+,-,+,+,-といった順に並べ替えたものです. この級数の和は次のように計算できます. まず交代調和級数の公式から
$$\frac{1}{2}-\frac{1}{4}+\frac{1}{6}-\frac{1}{8}+\cdots=\frac{1}{2}\log 2.
$$\(0\) を付け加えても級数の値は変わらないので,
$$0+\frac{1}{2}+0-\frac{1}{4}+0+\frac{1}{6}+0-\frac{1}{8}+\cdots=\frac{1}{2}\log 2.
$$これに元の交代調和級数を足すと
$$1+0+\frac{1}{3}-\frac{1}{2}+\frac{1}{5}+0+\frac{1}{7}-\frac{1}{4}+\cdots=\frac{3}{2}\log 2.
$$最後に0を取り去れば\((A)\)が得られて,
$$1+\frac{1}{3}-\frac{1}{2}+\frac{1}{5}+\frac{1}{7}-\frac{1}{4}+\frac{1}{9}+\frac{1}{11}-\frac{1}{6}+\cdots=\frac{3}{2}\log 2
$$となることがわかります. 交代調和級数は\(\log 2\)に収束していましたが, このように順序を入れ替えて得られる級数は異なる値\(\frac{3}{2}\log 2\)に収束しました.

上の例では正の項を2つ, 負の項を1つずつ並べた場合を考えました. ちなみに正の項をp個, 負の項をq個ずつ並ぶように順序を交換した級数は$$\log 2+\frac{1}{2} \log \frac{p}{q}
$$という値に収束することが示せます.

実は一般に条件収束する級数は, 和の順序を交換することで任意の実数に収束されられる(発散させることもできる)ことが知られています. Riemannの再配列定理と呼ばれていて, 以下のサイトには証明も掲載されています.
参考:リーマンの再配列定理

ライプニッツの定理

交代調和級数は+,-が交互に現れる級数ですが, 一般に\(a_{n}>0\; (n=1,2, \cdots)\) のとき,\(\sum_{n=1}^{\infty}\pm(-1)^{n-1} a_{n}\) を交項級数または交代級数と呼びます. 交代級数の収束に関しては以下のライプニッツの定理というものがあります

ライプニッツの定理

\( \left\{ a_{n} \right\}\) が単調減少数列で \(a_{n} \rightarrow 0\; (n \rightarrow \infty)\) ならば, 交項級数 \(\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1} a_{n}\) は収束する.

証明
\(S_{n}=\sum_{j=1}^{n}(-1)^{j-1} a_{j}\) とおく. まず偶数番だけを取り出した部分和の数列 \(\{S_{2n}\}_{n=1}^{\infty} \)に着目します. \begin{align}
S_{2 n} =\left(a_{1}-a_{2}\right)+\left(a_{3}-a_{4}\right)+\cdots+\left(a_{2 n-1}-a_{2 n}\right)
\end{align}より\(\{a_n\}\) は単調減少なので \(S_{2 n}\geq 0\) であり \(S_{2n}\leq S_{2(n+1)}\). また<br>$$S_{2 n}=a_{1}-\left(a_{2}-a_{3}\right)-\cdots-\left(a_{2 n-2}-a_{2 n-1}\right)-a_{2 n}\leq a_{1}$$となります. 従って数列 \( \left\{S_{2 n}\right\}_{n=1}^{\infty} \) は有界かつ単調増加なので,実数の連続性公理より\(\left\{S_{2 n}\right\}_{n=1}^{\infty}\) は収束します.その極限を \(\sigma\) とすれば奇数番だけを取り出した部分和の数列\(\{S_{2n+1}\}_{n=1}^{\infty}\) は $$ S_{2 n+1}=S_{2 n}+a_{2 n+1} \rightarrow \sigma+0=\sigma \quad (n \rightarrow \infty)$$となります.\(\left\{S_{2 n}\right\}_{n=1}^{\infty}\) も\(\left\{S_{2 n+1}\right\}_{n=1}^{\infty}\) も\(\sigma\) に収束するので, \(\left\{S_{n}\right\}\) は \(\sigma\)に収束する. よって \(\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1} a_{n}\) は収束する.

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